夢ニッキ

ユメみた猫の話

サイコパス少年が死を恐れた日の夢の話

私の目の前に一人の少年がいた。

シルクのようなきめ細やかな髪を持った
金髪の美少年だった。

肌は白くミルク色、目はエメラルドのように
煌めくグリーン。桃色の唇が微笑むと
うっかり心を許してしまいそうになる。

まるで天使のような外観の少年は
子供の無邪気な残酷さを
凝縮したかのようなサイコパスだった。

とは言っても彼はまだ
人を殺すまでに至っていない。

このまま成長すれば、
立派に美しい殺人鬼になる事が
予測された為、ある更正施設の中で
日々更正プログラムを受けていた。

私は更正プログラムの職員ではなく
どちらかといえば、施設の寮母として
更正対象者の心のケアと
身の回りの世話をしていた。

彼の思考は常識を逸脱している事は確かだが
それが異常である事、よくないものである事を
彼に理解させることは極めて困難だった。

彼の純粋無垢で残酷な心は、
更正プログラムですら対処出来なかった。

更正プログラム終了後、
彼が発した言葉が決め手となり
彼は更正不可の危険分子と決定され
処刑の対象となった。

彼が処刑対象となった時、
彼はストーブの目の前で寝転んでいた。
遊ぶものがなくて、退屈を持て余す
そこらの子供と幾分も変わらない表情だった。

私はハンバーグを焼きながら
彼が処刑されることを阻止できないか考えた。

ハンバーグが焼けたよ。と彼に声をかけ、
いつもと同じように一緒にご飯を食べる。

今日あったこと、本で見たこと
誰かの噂話、明日したいこと
私たちはいつもと変わらず
様々なお喋りに興じた。

彼はやっぱり、至って普通の子供のように
目を輝かせながら様々な話題に食いつき
ハンバーグのかけらを口の端につけたまま
色んなことを私に聞かせてくれた。

彼が処刑さる程度には異常なことを
忘れるくらい沢山笑って楽しい夕食を終えた。

夕食の皿を洗っている間、
彼はまた、ストーブの前で寝っ転がっていた。
そして私にこう聞いた。
「ねえ、僕はやっぱり死ななくちゃダメ?」

私は目を見開き、彼を見た。
泣きそうな、不安そうな顔をしていた。
どんな更正プログラムの最中でも
死の概念を理解できなかった子が、
自身の死を目の前に
やっと死を理解しはじめたんだ。
私は咄嗟にそう思った。

エプロンで濡れた手を拭きながら
慌ててそばにいた更正プログラム職員へ
問いかけた。

この子は死を理解しはじめている!
プログラムは成功していたんだ!!
処刑対象から外せないか?!
と口早に捲し立てた。

更正プログラム職員はバツの悪そうな顔で、
すでに機関の上層部へ処刑対象であることを
報告してしまった。覆すのは難しい。
と私に伝えた。

振り返って彼を見た。
寂しそうな仕方なさそうな顔で
私に微笑んでくれた。
そこで目が覚めた。

2018.7.24